ベトナムの医療システムの特徴
特徴1. 東南アジア唯一の強制皆保険制度
社会主義を掲げるベトナムでは平等の精神に基づき、公的な社会保険制度の一つとして強制皆保険制度(VSS)を提供しています。これは国家が健康保険法にしたがって運営する強制加入保険であり、加入した労働者は健康保険基金から保障対象の医療費が支払われます。
企業勤めの労働者だけではなく、子供や高齢者、少数民族、農林漁業従事者など社会的弱者も広く対象です。その補償金額は医療検診又は治療を受けた病院に応じて医療費の60%~100%とされています。
フリーアクセスでは無く健康保険証に記載された病院にて診療・治療を受けること可能で、混合診療が一般的で診療報酬体系は統一されていません。現在の加入率は7割弱となっていますが、政府は日本同様に完全な国民皆保険を目指しています。
また、公的医療機関の負担を減らすため、民間病院でも本制度を使えるようになることも保健省から提案されています。
市民は、健康に関しての保護制度を享受する権利を有する。 国家は、医療費制度・医療費の免除あるいは減額制度を規定する。ー憲法第61条
強制皆保険制度(VSS)の被保険者グループ
グループ1-5は強制保険。特に2-4は社会的弱者として、政府が保険料の全額あるいは半額を拠出。6は任意保険。
- グループ 1:被用者と公務員(約1500万人)
- グループ 2:年金受給者・他公的便益受給者(250万人)
- グループ 3:少数民族と低所得者(約3000万人)
- グループ 4:6歳未満児(約1000万人)
- グループ 5:学生(約2000万人)
- グループ 6:自営・農民・上記1-5以外のインフォーマルセクター(約2000万人)*任意保険
特徴2. 郡・省・中央の3層構造のレファラルシステム
公立医療機関は、症状にあわせて患者を紹介し合うリファラルシステムを運用しています。第1次(コミューン・郡レベル)、第2次(省レベル)、第3次(中央レベル)の下位から上位への三層構造となっています。このシステムを運用して、まず各地域のコミューンヘルスステーション(診療所)が軽度の患者を担当し、上位の医療機関が重度の患者に対応するといった医療機関の役割分担を実現しています。
しかし、各地方省の財源は乏しく十分な予算を配分できず、省病院の多くは施設・機材とも不十分で、医療従事者の質・量 ともに不足しています。また、富裕層等を中心にレファラルシステムを無視して上位レベルの医療機関に患者が過度に集中し、中央の拠点病院においては患者の一極集中が進み、200%近い病床稼働率となるなど、サービスの質の向上と医療システム全体の機能充実が大きな課題になっています。
レファラルシステムの階層
- 第1次(コミューン・郡レベル):コミューンヘルスステーション・郡病院・地域総合病院・産科病院
- 第2次(省レベル):省病院・伝統医療病院・専門病院
- 第3次(中央レベル):国立病院(チョーライ病院など)
ベトナムの医療システムが抱える課題
皆保険実現を目指すベトナムですが、保険加入率には大きな地域差が見られます。
ベトナムの医療事情は経済格差が大きく、富裕層や特別なコネクションがある特権層は、軽症でも中央の大規模病院を受診してレベルの高い医療サービスを利用します。(高額な民間高級病院を受診することも多い)一方で、貧困層は地方の公的医療機関または最寄りの診療所で質の低い医療サービスを利用するか、そもそも保険も医療機関も利用しせず街の薬局と自宅療養で済ませるケースが多いです。
このように、本来社会保障で支えられるべき層は公的医療保険を利用せず、公的医療保険の資金の相当部分は金銭的に余裕のある人が消費しており、社会保障を支えるべき層は公的医療保険に未加入という矛盾が生じています。
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