ベトナム社会主義共和国では医療環境・水準とも日本や周辺アジア先進国と比べ劣ります。
首都ハノイやホーチミン市などの大都市には外国人や富裕層が受診する民間病院や国際病院がある一方で、地方の医療環境は大きく異なり,医療水準の地域格差は近年ますます拡大しています。
ベトナムの医療事情について解説します。
ベトナムの医療機関の類型
1. 公立病院
ベトナムでは診療料金の価格差から民間より公立病院の優位性が高いです。公立病院は当局から様々な面で優遇されており、またそこで勤務する医師は、国家公務員であり社会ステース以外にも多くの恩恵を受けることができます。
ベトナム3大病院のバックマイ病院(ハノイ)、チョーライ病院(ホーチミン)、フエ中央総合病院(フエ)はベトナムを代表する公的医療機関です。しかし、紹介制度により地方病院で対応できない患者が中央の大病院にどんどん送られて、常に混雑して、朝早くからその日の診察の受付のために行列を待ち、夕方になって診察できるようなことも多いです。
設置を許可されたベッド数以上に患者を受け入れており、患者が簡易ベッドに寝かされたり、ひどい場合は1ベッドに2人の患者がいるのがベトナムの公立病院の実態です。
2. 民間病院
2000年以降国内の民間病院数は増加しており、2018年現在、170余りありベッド数の合計は約45,000床に上ります。民間病院は綺麗で豪華な施設、最新の医療機器を揃えるなど設備投資を行っているものの、70%の医療機関が経営難にあえいでいます。医療費が高くベトナム人患者を誘致出来ない、医療人材を確保できないないことに加えて、経営難の最大の要因は当局による公立優遇で、私立が土地使用や税制面で冷遇されていることなどが問題です。
主要な民間医療機関は、外資系が多いものベトナム資本の民間病院も多く存在します。VINMEC国際総合病院グループは大手不動産開発のビングループ(VinGroup)傘下の企業で、ハノイ、ホーチミン、フーコック、ニャチャン等、自社で開発したエリア内部に病院やクリニックを設置しています。また、ベトナム最大の民間医療機関グループであるホンマイ病院グループ(Hoang Mai)は現在では6つの病院(ダナン、ダラット、ビエンホ ア、ホーチミン(サイゴン)、カントー(ミンハイ、クーロン))と1つのクリニッ ク(ホーチミン(タンビン))を運営しています。
ベトナム資本の民間病院は外国人やベトナム人富裕層向けにVIP病棟を設置している場合が多いです。
3. 外資系病院(民間)
1994年より病院経営に、外資の導入が認められたことにより開設されました。ハノイやホーチミン市には、近代的な医療設備を備えた私立外資系病院・クリニックがいくつかあり,近年日系クリニックの進出や日本人医療従事者が勤務している医療機関も増えています。
ベトナム最初の私立病院としてフランス資本により2000年に設立されたハノイフレンチ病院(ハノイ)、同じくフランス標準の医療水準を誇る2003年設立のフランス資本のFVホスピタル(ホーチミン)などが有名です。しかしながら,診断の難しい病気や超高度医療が必要な時は,日本や近隣医療先進国(シンガポールやタイ)へ緊急移送される場合があります。
欧米、シンガポール、日系の医療機関は総じて診療費は高額で、基本的には外国人とベトナム人富裕層を対象としています。中でもシンガポール資本の高級クリニックのラッフルズメディカルは初診料100USD、入院費最低1,000USD(1日あたり)など現地でも最も高額な診療費です。
ベトナムの医療保険制度
ASEAN唯一の強制皆保険制度”VSS”
ベトナムの医療保険制度は”社会保障を保全される権利を持つ”と憲法のもと、強制保険(Vietnam Social Security “VSS”) と任意保険の二本立てで設計されています。強制皆保険制度を持っている国はASEAN諸国ではベトナムのみで、社会主義制度の性格が現れています。
公的保険の被保険者は大きく6つのグループに分類されます。下記1〜5に当てはまる人は政府により強制保険に加入し、中でも2〜5に分類される人は社会的弱者として政府が保険料の半額または全額払って強制加入させています。一方、グループ6は、グループ 2-5 に規定される社会的弱者に当てはまらないインフォーマルセクターの人々で任意保険対象。
強制皆保険制度(VSS)の被保険者グループ
グループ1-5は強制保険。特に2-4は社会的弱者として、政府が保険料の全額あるいは半額を拠出。6は任意保険。
- グループ 1:被用者と公務員(約1500万人)
- グループ 2:年金受給者・他公的便益受給者(250万人)
- グループ 3:少数民族と低所得者(約3000万人)
- グループ 4:6歳未満児(約1000万人)
- グループ 5:学生(約2000万人)
- グループ 6:自営・農民・上記1-5以外のインフォーマルセクター(約2000万人)*任意保険
ベトナムと日本の医療制度の違い
1. 保険料の70%を国家財源から負担
まず、財源は日本では約半分を保険料が占めますが、ベトナムでは、保険料の政府補助対象(社会的弱者)が全人口の63% に上り、7割を公費が占めており、公費割合が急速に増加しています。今後、保険の徴収料をどう増やしていくかが政府の課題となっています。
2. 混合診療で省ごとに価格が違う
次に、日本では基本的に混合診療は禁止されていますが、ベトナムでは公的病院の財政自律性が認められており、殆どの診療サービスが混合診療となっています。また、ベトナムも日本同様、医療費は出来高制を基本としていますが、ベトナムの場合は価格が省ごとに異なり、診療報酬体系が全国統一されていないません。
3. 決められた医療機関へかかる
そして、日本ではフリーアクセスであるのに対し、ベトナムではレファラル・システムにより医療機関登録制で決められた医療機関へかかる仕組みです。貧困,障害者など多数の政策対象者が最初に通院する医療機関は、地域の社レベルの診療所です。社レベル診療所,診療・治療,健康ケア活動を実行する最初のレベルであり,活動の中にはプライマリヘルスケア,応急措置,助産,母子の保護,家族計画,社・坊・市鎮 における感染症を発見し、上級機関に伝える機能を有しています。
政府は、2021年までのフリーアクセス実現を目指しています。